ホメオパシーを批判する人の主張のなかでよくみかけるのが、「ただの砂糖玉を高額な価格で販売」などというものであるが、今回は、これについて考察を加えてみたい。
まず、あるブログで取り上げられている比較対象は精製した上白糖で、価格は1kg206円となっているが、レメディーの原料となる砂糖はテンサイ糖であり、通常その3倍くらいの価格で販売されている。しかも、昨今ではテンサイ糖が品薄であり、レメディー製造のために一定量確保することは厳しい状況にあると想像される。
しかしその前に、少しでも製造業に関わったことがある人間なら、この比較は成立しえないものであることがわかると思うが、それをあえて指摘するならば、商品価格と材料の一部の原価を比較して「ぼったくり」などと主張することがナンセンスであることは自明であろう。
このあたりは化粧品などでも常に話題に上がるところであるが、もっとわかりやすい例をあげるならば、ミネラルウォーターがペットボトルに入れられて売られているが、天然水は原料はただだから無限倍の価格で売ってぼったくっている、けしからん、ただでよこせ、と主張するのと同じようなものである。もしレメディーについてこのような批判を展開するならば、すべての化粧品メーカーや飲料水メーカー、果てはすべての製造業を批判の対象にしなければ筋が通らない。
それでは、ここでレメディー製造に必要なコストについて、製造工程に従っていくつか記述してみよう。
まずは砂糖玉についてであるが、冒頭で述べたテンサイ糖そのものの材料費に加え、テンサイ糖を丸くする作業にコストがかかる。
砂糖を丸く固める方法について考えたことはあるだろうか。実はこれは、プレスなどで実現できるものではなく、職人技と言えるような高度な技術と時間が必要になるという。以前、日本の某レメディー製造メーカーで国産化を試みたが、技術的な問題もあり、またあまりに手間がかかるので見送った、という話を聞いたことがある。具体的には、金平糖などの製造方法に似ており、芯材に液体の砂糖を少しずつ吹き付けて、じっくり時間をかけて丸く大きく成長させていくらしい。均一な大きさの球形に整えていくことがとても難しく、このあたりで熟練した職人の技が必要とされるようだ。それだけをみても、レメディーを単なる砂糖、と言い放つことには無理がある。
次に、砂糖玉にしみこませる液体のレメディーについてであるが、まず原物質の原価があるだろう。
そして、肝となる希釈振盪のプロセスに多大な労力がかかることは容易に想像できるだろう。希釈振盪のやり方については書籍などにも詳しく記載されているのでご存じだとは思うが、一般的な希釈率30c(1/100希釈を30回繰り返す)の場合、まず、加熱殺菌した容器・ピペットを30セット類用意しなければならない。99ccの純水を入れた容器に1ccの母液(希釈前のマザーチンクチャー)を加え手作業で振盪(叩く)作業を行う。製造メーカーによって10回~50回程度とばらつきがあるが、丁寧に手作業で振盪を行う。それが終わったら、ピペットで1ccを取り出し、次の純水99ccが入った容器に加え、それをまた振盪し、という作業を30回繰り返す。これだけで2時間以上はかかるらしい。30cだけならまだよいが、200cや1M(=1000c)、10M(=10000c)等という希釈率も存在する。200cを30cの作業時間から推測すると、1日以上時間がかかるだろう。さらに高希釈の1Mや10Mとなってくると手作業では難しい領域になってくる。外国の製造メーカーでは、ポーテンタイゼーションマシンを用いて、希釈振盪を完全自動化させているところもあるようだが、10Mなどの希釈率になると、機械でも1週間以上連続運転必要とのことだ。したがって、液体のレメディーを製造するには相当の労力がかかっており、それら人件費の加味は当然必要となってくる。
また、原物質が鉱物などでアルコール抽出できない場合は、摩砕(トリチュレーション)という作業、すなわち乳糖の中に原物質を1:100の割合で加えて粉砕・攪拌する作業を行うが、これは1/100に薄める一工程で数時間かかる。通常3cまでトリチュレーションを行いその後は希釈振盪を行うが、トリチュレーションを伴う30cまでの希釈については、希釈振盪のみを行う場合よりも4倍以上の時間を要することになる。
そして、その希釈振盪を行った液体をレメディーにしみこませるための作業も必要であるが、これも、砂糖玉に均一に行き渡らせるためにはそれなりの技術が必要のようで、攪拌しながら十分に染み渡るまでの作業に数日の時間を要するという。
上記以外にも、砂糖玉を入れておく容器やラベルなどの原価もある。砂糖玉を容器に詰める作業にも労力がかかる。容器に詰める作業は繊細な作業である上、少量多品種生産が必要なため、コスト的にも技術的にも機械化できず、一つ一つ手作業で容器に詰めている、という話を製造メーカーから聞いたことがある。そもそもレメディー製造メーカーは大手の食品会社などと違って、生産量が桁違いに少なく、その違いは、砂糖玉、容器、シールなどあらゆる原材料のコストに桁違いに反映されることは理解できる話であろう。売り上げが小さければ設備投資可能な金額も少なく、結果的に大手食品会社の完全自動化された生産と、レメディー製造メーカーの完全ハンドメイドによる生産では、そのコストに大きな隔たりを生じてしまうのは仕方のない話だ。
このほかにも輸入・輸送コストや、工場の維持費など諸々経費がかかっていることはいうまでもないことである。
以上がおおまかなレメディー製造にかかるコスト要因であるが、当然のことながら詳細はメーカーが開示しないため、金額については想像するしかない。しかし、レメディーの製造方法を順にたどりながらコスト要因を考えてみるだけでも、単純にレメディーを砂糖(上白糖)と比較して~倍だからぼったくり、などと主張することがいかに無理があるかわかるだろう。
もちろん、このような主張を信じる人はほとんどいないと思われるが、真に受けてしまう人もたまにいるようなので、今回あえてこのような記事を掲載することにした。ホメオパシー療法を行う上での参考にしていただきたいと思う。